リレー小説
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(21) 向 2007/12/7(19:46)
電車は私の家の最寄り駅のホームに着きました。安堵の瞬間です。ホームから乗りこもうとする人をさえぎりながら電車を降りて、地面や壁面に描かれた矢印通りに歩を進め、改札口を通過しました。急ぎ早にロッカーに向かい落書きの確認を行いました。私の書いたものとその隣にもう一つの落書き。別段変化が無い事がわかったのですぐにスーパーへ向かいました。
思い返してみると、やはり須藤君が証言したロッカーのことは二人の男による催眠の影響か、偶然ロッカーというキーワードがでただけであり、この駅のロッカーとは関係のないことではないでしょうか。しかし偶然なんてものはそう簡単に起きるものではありません。やはり催眠説か、若しくはあの2人との共謀説のどちらかでしょう。私を翻弄するなんて最低最悪です。
近所のスーパーでは週に一度のポイント5倍セールが行われていて、賑わいをみせていました。特別な日です。例えば普段1000円で10ポイントのところ今日は50ポイント付与されるのです。1ポイント1円で還元されます。ただこれに浮かれてるわけではありません。安いから買う、得だから買うというのではありません。見切り品は、賞味期限が間近なものや期限切れのものや痛んだもの、傷物です。本来そのまま売れ残って捨てられる悲惨な物を私は救いたいのです。
夕飯を買い込んだ私は、スーパーの自動ドアの前で嫌な事態に巻き込まれました。自動ドア越しに須藤と若い女の姿が見えたのです。
ただでさえ会社以外で人と会うことが稀であるのに、しかもその人間は須藤です。なんでこんなところにいるのでしょうか。そのまま気付かずどこかに行って欲しいと願いました。ここに須藤がいるということは須藤はこの近くに住んでいるのでしょうか。会社では家が遠いと言ってましたが、この辺りは遠いというほど遠くはありません。証言の中ででたロッカーは同じ駅のロッカーなのでしょうか。
疑問が頭を駆け巡るなか、センサーは私を感知しドアを開けました。2人は私には気付かずそのまま歩いています。迷子になるわけでもないのに手をつないでゆっくりと歩いています。このままあの2人と落ち合う様子があれば女も黒です。
私は明日に予定していた尾行を今この時、実行に移そうと考えていました。
幸いレジ袋に頼らず自分で用意した布のカバンで買い物をしており、いつも通り通勤はスニーカーなので、静かに彼らをつけることが出来そうです。
(20) ポンポン鳥 2006/2/3(20:2)
攻撃は最大の防御なりといいますが、この時は攻撃的な気持ちはなく何かしらの行動を起こす事に期待が持てました。行動を起こさなければ結果は得られない。また、行動を起こし結果を得る事で、その結果が次の行動への起爆剤になるのです。
時計を見ると何時の間にか30分も会社のビルの陰に隠れている事に気付きました。
須藤君はまだ会社から出てこないのでしょうか。彼が鞄を整理し、帰り支度をしている所を見て咄嗟に会社を出てこのビルの陰に隠れたのですから彼が残業をしているとは考え難い事でした。
それでは私はいつの間にか彼を見逃してしまったのでしょうか。
尾行の経験などもちろんなく、妙に見つかってしまう事に臆病になりすぎて顔を殆ど出さなかった事が悔やまれました。
明らかに遅いこの時間は彼を見失ってしまった事を明白に表していました。私は不甲斐ない自分を嘲って一つため息をつくと、別にこれは急ぐ事じゃない、また明日尾行に挑戦すれば良いじゃないかと、気持ちを切り替えて帰宅する事にしました。
確認でもう一度時計を見るとさらに10分の時が進んでおり、今から帰ればちょうど自宅近くのスーパーで惣菜の見切りセールが始まる時間だなと思い足早に駅に向かいました。
と、会社のビルの玄関の前に須藤君が居ました。どうやら須藤君は玄関の所で同期の社員と世間話をしていたようなのです。そして、私がちょうど玄関の前を通り過ぎた時に彼らの話も終わり出てきた所だったのです。
須藤君は昼間、気を失い倒れた事なんかはおくびにも出さず元気な声で「先輩、お疲れ様です」と言い私の横を通り過ぎていきました。
私は自分の行動の軽率さに呆気に取られ返事を返す事もできずにただ、右手を上げることだけで返答しました。
須藤君の歩く速度は速く、呆然と見つめている間にもどんどんその姿は小さくなっていきました。もちろん今から尾行を再開するわけには行きません。改めてもう一つため息をつくと次の電車の時間に間に合わなくなるとスーパーの見切りセールに間に合わなくなる事を思い出し急いで駅まで走りました。
電車に乗っている時間は、昼間の二人の事を考えては思考が迷路の中に入り込み、頭を振って意識を切り替え、須藤君の尾行の算段を考えては論理がメビウスの輪を作り、重たい頭を重力に任せて自分の膝の間へと潜り込ませて、落書きの件に思い至った時、ふと自分の腕の傷をこの場で確認したい衝動に駆られましたが、私が付け狙われているかもしれないという立場を思い出し、貼られているバンソーコーを確認して、痛みが和らいでいる事に安堵すると、帰宅途中にコインロッカーを確認してみようかなという気になりました。
(19) 向 2006/1/25(11:27)
課長と若手社員、そして二人の男は互いに区切りをつけ、席を立ち始めました。
結局、二人の男は何かを探るわけでもなく終始軽い口調で談笑するばかりで、一向に私にはアプローチをしてきませんでした。私はその談笑の裏に何かあるのではないかと疑い、若手社員の言ったことが本当なのかうそなのかを確認すべく、自社の名簿に目を通し、彼の住所を調べようとしましが、そもそも名簿には個人の住所などは載せられておらず彼の名前と所属先しか知りえる事が出来ませんでした。
私は、彼の不明瞭な証言が、二人の男による催眠である可能性を視野に入れ、二人の男が会社に現れた事が偶然であろうとなかろうと、二人への警戒心を変わらず強固なまま保つよう頭に念じました。
しばらくして二人の男は怪しい仕草一つとみせず会社を去りました。
私は窓から外を歩く二人の様子を伺いましたが、二人がこちらを振り返る事はありませんでした。そんな様子を見ていても、彼らから隠れ切れた確信が持てないでいました。
喫茶店では、私の事を親身になって考えているような言い方をし、私の事を調べていた様子だったのにもかかわらず、私のことをまるで話にも出さず、探そうともしないその態度は無関係そのものでした。意識を向けられた気さえ感じさせませんでした。
二人の男が交差点の角を曲がると姿は見えなくなりました。窓に添えた私の手は緊張のあまり離すことが容易でなくなり、しばらくの間そのまま立っていました。今の会社でこんな私に声をかけるのは気まぐれな先輩だけですが、今のこの時だけは、その気まぐれが起きないでいてもらいたいと思いました。私は呼吸のコントロールを覚えつつ、窓の向こうに立ち並ぶビルの隙間の向こうの空を見つめました。
その日の夕方、私はその若手社員、須藤進の退社時刻に合わせて会社を後にしました。彼の最寄り駅を調べる事は勿論ですが、それだけではなく、二人の男達と後で落ち合うような事がないか、連絡を取り合うことが無いか確認するためです。
この追跡は、私が彼らの思い通りにならない人間である事を叶えるためのものです。